2015年12月2日水曜日

昔住んでいた家の側に流れていた川の話 - 川 Advent Calendar 2015 2日目

「川 Advent Calendar 2015」2日目の記事です。

1日目はこちら。
渋谷川 (二級河川) — Medium makimotoさん


 齢幾つの時か忘れたが、子供の頃である。昔住んでいたアパートの側に川が流れていた。そこそこの川幅で、たまに船が通り、釣りをする人もいた。何が釣れたのだろうか。そんな風景をちょうどベランダから眺めることができた。川の名前は覚えていない。住所も忘れてしまった。

 夏はベランダに出て花火を眺めていた。何か食べ物でも持ってきて、椅子に座って、ゆっくりと、夜空に咲く大きな花と小さな体を揺らす大きな音を楽しんでいた。ベランダにはすだれが置いてあったのだが、そこにクロスズメバチが住み着いていて、ほんの数匹だったが、それがちょうどひょっこりと顔を出して、一緒に花火を見ているような気分になったのが印象深い。ハチはこちらから刺激しなければ襲ってこないので、結構放置していた。引っ越しの片づけの時にはいなくなっていた。

 ある日、ベランダから川を見ると、水が紫色になっていた。透き通るような美しい紫色ではなく、如何にも工業排水垂れ流しといった風な、不透明でどろどろの紫だった。以前釣りをしていた人がいたな、魚は釣れたのだろうか、その魚は食べたのだろうか、こんなどう見ても有害な川に棲んでいる魚を食べるなんて恐ろしい、と思った。汚水化は1度きり(どのくらい続いたかは覚えていない)だったが、それ以来川を見る目が変わってしまった。知らぬが仏。

 うちにはそこそこ大きな鯉のぼりがあり、5月5日になると毎年鯉のぼりを組み立て、ベランダの柵に括り付けて揚げていた。風を受けて、黒くて大きな父の鯉、赤くて中くらいの母の鯉、青くて小さな子の鯉が、まるで川と空をいっぱいに泳いでいるように靡いた。しかし、括り付け方が悪かったのか、もしくは余程強い風が吹いたのか、はたまた妖怪が悪戯でもしたのか、ある日突然黒くて大きな父の鯉が風に飛ばされていってしまった。ああっと思ったがどうすることもできない。風に飛ばされるその姿は、柱に縛り付けられていた状態から解き放たれてゆうゆうと空を飛ぶ龍のように見えた。

 それから何度か引っ越しを重ね、その土地からはだいぶ離れ、見に行くこともないが、たまにそんな子供の頃の風景を思い出すのである。

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